本日は少々変わったお話をしながら・・案外・・人類の現代社会にも十分通用すると思われる教訓物語を二作・・更には著者europe123作=小学生でも書ける漫画レベルをLastに追加します。
その前に・・著者の作品はおそらく300程度あると思われ・・ジャンルはと申し上げれば「純文学・時代もの・児童書・恋愛等人類社会ものその他大衆娯楽もの・法律もの・アクションもの・宇宙空間もの・怖い所謂ショートショート・歴史・詩・科学=医学・物理などに関連するもの~・寅さんシリーズや相棒シリーズのような所謂二次作品もどき=二次作品とは、既に公開されている映画やドラマなどのキャラクターのみ登場させ、似たような雰囲気を醸し出すことを意図し創作した、但し、ストーリーは全くオリジナルの別物、の事を此処では言います。勿論、登場人物の名前などは別の=もどき~ですが、仮に、名前が寅さんにsituationが同じであれば・・真似事となり、出版等は出来ません。著者は内容も目的も異なるのでその範疇ではない事になりますが、実際には4作しか存在しません~」
先ずは・・イソップ童話から「北風と太陽」。
北風と太陽
北風と太陽が、どちらが強いかでいいあらそっていました。
議論ばかりしていてもきまらないので、それでは力だめしをして、旅人の着ものをぬがせたほうが勝ちときめよう、ということになりました。
北風がはじめにやりました。
北風は思いきり強く、
「ビューッ!」と、吹きつけました。
旅人はふるえあがって、着ものをしっかり押さえました。
そこで北風は、いちだんと力を入れて、
「ビュビューッ!」と、吹きつけました。
すると旅人は、
「うーっ、さむい。これはたまらん。もう1まい着よう」
と、いままで着ていた着ものの上に、もう1まいかさねて着てしまいました。
北風はがっかりして、
「きみにまかせるよ」と、太陽にいいました。
太陽はまずはじめに、ぽかぽかとあたたかくてらしました。
そして、旅人がさっき1まいよけいに着たうわ着をぬぐのを見ると、こんどはもっと暑い、強い日ざしをおくりました。
じりじりと照りつける暑さに、旅人はたまらなくなって、着ものをぜんぶぬぎすてると、近くの川へ水あびにいきました。
これは原文ではありませんが・・謂わんとするところは「力で押し付けるのではなく、互いに手を取りあう事から物事は改善し世界や社会も発展をする」という趣旨で、以前にも申し上げましたが、人類にはとても苦手な事と言え・・正に、東西諸国の融和が図れないのではなく・・図ろうとするどころか・・益々、争いを産みだす事を他国に要請しているのが現状です。
この国のような、歴史上、中央集権型の黄色人種は、天皇制であったり、貴族の傀儡政権や武士の幕府支配の基に育ってきた・・しかも、鎖国を経た島国。
ところが、敗戦後は独自の主義を貫くことが叶わず、USAの属国となり、未だに西側諸国の同盟国を欲する事を疑わない国民となり・・或る意味、中央集権の代替え下とも言えるでしょう。
国民の意思がそうであれば、致し方が無い事でもありますが、理想は「どこの国とも自由に交易を行い和をきする中立国ではないでしょうか」・・明治以降、西洋の民主主義を取り入れ・・日清・日露・第一次大戦を経、勢いに乗った挙句、やらかしたのが、敗北に繋がりました。
ところが、その教訓が活かされていない・・要は「食料」「資源等物資」が無かった事に起因しているのに・・どうでしょう・・世界は分裂だけでなく・・意地を張り続け、小っぽけな惑星を同じ色に塗り替える事を望んでいる・・結果は・・経済から治安その他に至るほぼ全てが悪化の一途、当然、貧困の差が増すと共に、生活が苦しくなる。
著者は何不自由なく・・人類社会から離れていますから、何も支障が無く不安もさらさらない・・しかし、あなた方人類の事に関しては多少心配になる。
宇宙空間では・・とても通用する事ではなく・・人類のような原始的な生命体は、自己しか存在しないと勝手な判断をする・・全く何事も異なる広大且つ果ての無い空間に於いては・・微生物にも匹敵しなく・・太陽系消滅を待つばかり=恒星減衰に衛星離脱現象は続く一方だが・・残念ながら「その時」までに太陽系脱出は不可能。
もう一つ、パラドックス=逆説~のように感じるだろうが・・人類の歴史は争い=戦争~により、技術力が進歩してきた・・かろうじて、電気関係の製品・バッテリーとIT関連は表向き技術革新のように見えるが・・ガソリン車は年式に係わらず十万キロ走って当然。自動車メーカー曰く「軽四輪は価格300万・普通車はそれ以上ですが・・装備が充実していますから・・」・・これなのだが・・装備に無駄な機能・・例えば、必要な装備とは、せいぜい・・フォグランプ=例えば、夏の箱根の急カーブでは濃霧が発生するので、一メートル先も全く見えない。その際はフォグランプでセンターラインを写照らし出し、センターラインに沿ってそろそろ走るか・・やめるか・・そうでなければ、ガードレールを突っ切って谷底に落ちる・・ダブルフォーン・ETC・ナビその他一式・・その他・・信号待ちでヘッドライトoffが出来ない・・その他。
で・・肝心な運転技術のレベル低下・・車の幅が分からず・・必ず、対向車が来れば、十分の幅員でも停止するしかない・・マニュアル車が無い一方・・automaticのギアチェンジ・シフトダウンを頻繁に使用しなく、ブレーキのみに頼る・・その他・・。
進化以前からの動物の本能である争い・・おかしな平和が続いている現代と昭和だけでも比較をしてみると・・人口減・犯罪増・社会全体が斜陽・・一例で・・70年代は・・十年定期貯蓄で元本が二倍=勿論利息には課税が伴うが~公社債も高く・・現代の結果は、ギャンブルである投資に頼るしかないが・・安全ではない。
そこに・・世界構造不況・・将来年金資源不足・国の負債1900兆円から増・・先日、公務員の若い女性に尋ねてみたら・・「そういう事言わないでください・・以前、皆でその事を考えた事があるので・・結果何も考えないようにしているんですから・・」
要は世代交代による能力不足が顕著に・・。
実は、現代では文章を読むことが少ない傾向にある。animation・漫画・画像・スマフォ歩き・・パソコンによる文章変換・・。
そんな事はどうでも良い・・
さて・・次の、芥川龍之介作「杜子春」・・小説と雖も、文豪たちの存在は侮れなく・・夏目漱石を筆頭に木曜会弟子の芥川その他・・菊池寛・小説の神様志賀直哉・文章の奇麗な川端康成・武者小路実篤・谷崎・・挙げればきりがない・・。
今回は、親と子がテーマ・・。
次回は土曜を予定だが・・場合によっては、天才夏目漱石をテーマにとり・・その中から「夢十夜」本物の第六話を。
更に、当然ながら遥かに劣るが・・著者の第十一夜も掲載する予定。
芥川龍之介作「杜子春」青空文庫から、著作権無し。
或春の日暮です。
唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費い尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になっているのです。
何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。
しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭せて、ぼんやり空ばかり眺めていました。空には、もう細い月が、うらうらと靡いた霞の中に、まるで爪の痕かと思う程、かすかに白く浮んでいるのです。
「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし――こんな思いをして生きている位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない」
杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを思いめぐらしていたのです。
するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眇の老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら、
「お前は何を考えているのだ」と、横柄に声をかけました。
「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」
老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、思わず正直な答をしました。
「そうか。それは可哀そうだな」
老人は暫く何事か考えているようでしたが、やがて、往来にさしている夕日の光を指さしながら、
「ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」
「ほんとうですか」
杜子春は驚いて、伏せていた眼を挙げました。ところが更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見当りません。その代り空の月の色は前よりも猶白くなって、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠が二三匹ひらひら舞っていました。
杜子春は一日の内に、洛陽の都でも唯一人という大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に当る所を、夜中にそっと掘って見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たのです。
大金持になった杜子春は、すぐに立派な家を買って、玄宗皇帝にも負けない位、贅沢な暮しをし始めました。蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色の変る牡丹を庭に植えさせるやら、白孔雀を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦を縫わせるやら、香木の車を造らせるやら、象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。
するとこういう噂を聞いて、今までは路で行き合っても、挨拶さえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって来ました。それも一日毎に数が増して、半年ばかり経つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位になってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛なことは、中々口には尽されません。極かいつまんだだけをお話しても、杜子春が金の杯に西洋から来た葡萄酒を汲んで、天竺生れの魔法使が刀を呑んで見せる芸に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが、十人は翡翠の蓮の花を、十人は瑪瑙の牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴を節面白く奏しているという景色なのです。
しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。そうすると人間は薄情なもので、昨日までは毎日来た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、又杜子春が以前の通り、一文無しになって見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸そうという家は、一軒もなくなってしまいました。いや、宿を貸すどころか、今では椀に一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。
そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行って、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立っていました。するとやはり昔のように、片目眇の老人が、どこからか姿を現して、
「お前は何を考えているのだ」と、声をかけるではありませんか。
杜子春は老人の顔を見ると、恥しそうに下を向いたまま、暫くは返事もしませんでした。が、老人はその日も親切そうに、同じ言葉を繰返しますから、こちらも前と同じように、
「私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、恐る恐る返事をしました。
「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その胸に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」
老人はこう言ったと思うと、今度もまた人ごみの中へ、掻き消すように隠れてしまいました。
杜子春はその翌日から、忽ち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。庭に咲いている牡丹の花、その中に眠っている白孔雀、それから刀を呑んで見せる、天竺から来た魔法使――すべてが昔の通りなのです。
ですから車に一ぱいにあった、あの夥しい黄金も、又三年ばかり経つ内には、すっかりなくなってしまいました。
「お前は何を考えているのだ」
片目眇の老人は、三度杜子春の前へ来て、同じことを問いかけました。勿論彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやり佇んでいたのです。
「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです」
「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――」
老人がここまで言いかけると、杜子春は急に手を挙げて、その言葉を遮りました。
「いや、お金はもういらないのです」
「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」
老人は審しそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。
「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想がつきたのです」
杜子春は不平そうな顔をしながら、突慳貪にこう言いました。
「それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?」
「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔しい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」
老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。
「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮して行くつもりか」
杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、
「それも今の私には出来ません。ですから私はあなたの弟子になって、仙術の修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜の内に私を天下第一の大金持にすることは出来ない筈です。どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」
老人は眉をひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、
「いかにもおれは峨眉山に棲んでいる、鉄冠子という仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快く願を容れてくれました。
杜子春は喜んだの、喜ばないのではありません。老人の言葉がまだ終らない内に、彼は大地に額をつけて、何度も鉄冠子に御時宜をしました。
「いや、そう御礼などは言って貰うまい。いくらおれの弟子にしたところが、立派な仙人になれるかなれないかは、お前次第で決まることだからな。――が、ともかくもまずおれと一しょに、峨眉山の奥へ来て見るが好い。おお、幸、ここに竹杖が一本落ちている。では早速これへ乗って、一飛びに空を渡るとしよう」
鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口の中に咒文を唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るように跨りました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、勢よく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。
杜子春は胆をつぶしながら、恐る恐る下を見下しました。が、下には唯青い山々が夕明りの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見当りません。その内に鉄冠子は、白い鬢の毛を風に吹かせて、高らかに歌を唱い出しました。
朝に北海に遊び、
暮には
蒼梧。
袖裏の
青蛇、
胆気粗なり。
三たび岳陽に入れども、人
識らず。
朗吟して、
飛過す
洞庭湖。
二人を乗せた青竹は、間もなく峨眉山へ舞い下りました。
そこは深い谷に臨んだ、幅の広い一枚岩の上でしたが、よくよく高い所だと見えて、中空に垂れた北斗の星が、茶碗程の大きさに光っていました。元より人跡の絶えた山ですから、あたりはしんと静まり返って、やっと耳にはいるものは、後の絶壁に生えている、曲りくねった一株の松が、こうこうと夜風に鳴る音だけです。
二人がこの岩の上に来ると、鉄冠子は杜子春を絶壁の下に坐らせて、
「おれはこれから天上へ行って、西王母に御眼にかかって来るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているが好い。多分おれがいなくなると、いろいろな魔性が現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たといどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではないぞ。もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。好いか。天地が裂けても、黙っているのだぞ」と言いました。
「大丈夫です。決して声なぞは出しません。命がなくなっても、黙っています」
「そうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行って来るから」
老人は杜子春に別れを告げると、又あの竹杖に跨って、夜目にも削ったような山々の空へ、一文字に消えてしまいました。
杜子春はたった一人、岩の上に坐ったまま、静に星を眺めていました。するとかれこれ半時ばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い着物に透り出した頃、突然空中に声があって、
「そこにいるのは何者だ」と、叱りつけるではありませんか。
しかし杜子春は仙人の教通り、何とも返事をしずにいました。
ところが又暫くすると、やはり同じ声が響いて、
「返事をしないと立ちどころに、命はないものと覚悟しろ」と、いかめしく嚇しつけるのです。
杜子春は勿論黙っていました。
と、どこから登って来たか、爛々と眼を光らせた虎が一匹、忽然と岩の上に躍り上って、杜子春の姿を睨みながら、一声高く哮りました。のみならずそれと同時に、頭の上の松の枝が、烈しくざわざわ揺れたと思うと、後の絶壁の頂からは、四斗樽程の白蛇が一匹、炎のような舌を吐いて、見る見る近くへ下りて来るのです。
杜子春はしかし平然と、眉毛も動かさずに坐っていました。
虎と蛇とは、一つ餌食を狙って、互に隙でも窺うのか、暫くは睨合いの体でしたが、やがてどちらが先ともなく、一時に杜子春に飛びかかりました。が虎の牙に噛まれるか、蛇の舌に呑まれるか、杜子春の命は瞬く内に、なくなってしまうと思った時、虎と蛇とは霧の如く、夜風と共に消え失せて、後には唯、絶壁の松が、さっきの通りこうこうと枝を鳴らしているばかりなのです。杜子春はほっと一息しながら、今度はどんなことが起るかと、心待ちに待っていました。
すると一陣の風が吹き起って、墨のような黒雲が一面にあたりをとざすや否や、うす紫の稲妻がやにわに闇を二つに裂いて、凄じく雷が鳴り出しました。いや、雷ばかりではありません。それと一しょに瀑のような雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変の中に、恐れ気もなく坐っていました。風の音、雨のしぶき、それから絶え間ない稲妻の光、――暫くはさすがの峨眉山も、覆るかと思う位でしたが、その内に耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟いたと思うと、空に渦巻いた黒雲の中から、まっ赤な一本の火柱が、杜子春の頭へ落ちかかりました。
杜子春は思わず耳を抑えて、一枚岩の上へひれ伏しました。が、すぐに眼を開いて見ると、空は以前の通り晴れ渡って、向うに聳えた山々の上にも、茶碗ほどの北斗の星が、やはりきらきら輝いています。して見れば今の大あらしも、あの虎や白蛇と同じように、鉄冠子の留守をつけこんだ、魔性の悪戯に違いありません。杜子春は漸く安心して、額の冷汗を拭いながら、又岩の上に坐り直しました。
が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐っている前へ、金の鎧を着下した、身の丈三丈もあろうという、厳かな神将が現れました。神将は手に三叉の戟を持っていましたが、いきなりその戟の切先を杜子春の胸もとへ向けながら、眼を嗔らせて叱りつけるのを聞けば、
「こら、その方は一体何物だ。この峨眉山という山は、天地開闢の昔から、おれが住居をしている所だぞ。それも憚らずたった一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。さあ命が惜しかったら、一刻も早く返答しろ」と言うのです。
しかし杜子春は老人の言葉通り、黙然と口を噤んでいました。
「返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属たちが、その方をずたずたに斬ってしまうぞ」
神将は戟を高く挙げて、向うの山の空を招きました。その途端に闇がさっと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満ちて、それが皆槍や刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしているのです。
この景色を見た杜子春は、思わずあっと叫びそうにしましたが、すぐに又鉄冠子の言葉を思い出して、一生懸命に黙っていました。神将は彼が恐れないのを見ると、怒ったの怒らないのではありません。
「この剛情者め。どうしても返事をしなければ、約束通り命はとってやるぞ」
神将はこう喚くが早いか、三叉の戟を閃かせて、一突きに杜子春を突き殺しました。そうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑いながら、どこともなく消えてしまいました。勿論この時はもう無数の神兵も、吹き渡る夜風の音と一しょに、夢のように消え失せた後だったのです。
北斗の星は又寒そうに、一枚岩の上を照らし始めました。絶壁の松も前に変らず、こうこうと枝を鳴らせています。が、杜子春はとうに息が絶えて、仰向けにそこへ倒れていました。
杜子春の体は岩の上へ、仰向けに倒れていましたが、杜子春の魂は、静に体から抜け出して、地獄の底へ下りて行きました。
この世と地獄との間には、闇穴道という道があって、そこは年中暗い空に、氷のような冷たい風がぴゅうぴゅう吹き荒んでいるのです。杜子春はその風に吹かれながら、暫くは唯木の葉のように、空を漂って行きましたが、やがて森羅殿という額の懸った立派な御殿の前へ出ました。
御殿の前にいた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまわりを取り捲いて、階の前へ引き据えました。階の上には一人の王様が、まっ黒な袍に金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねて噂に聞いた、閻魔大王に違いありません。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪いていました。
「こら、その方は何の為に、峨眉山の上へ坐っていた?」
閻魔大王の声は雷のように、階の上から響きました。杜子春は早速その問に答えようとしましたが、ふと又思い出したのは、「決して口を利くな」という鉄冠子の戒めの言葉です。そこで唯頭を垂れたまま、唖のように黙っていました。すると閻魔大王は、持っていた鉄の笏を挙げて、顔中の鬚を逆立てながら、
「その方はここをどこだと思う? 速に返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責に遇わせてくれるぞ」と、威丈高に罵りました。
が、杜子春は相変らず唇一つ動かしません。それを見た閻魔大王は、すぐに鬼どもの方を向いて、荒々しく何か言いつけると、鬼どもは一度に畏って、忽ち杜子春を引き立てながら、森羅殿の空へ舞い上りました。
地獄には誰でも知っている通り、剣の山や血の池の外にも、焦熱地獄という焔の谷や極寒地獄という氷の海が、真暗な空の下に並んでいます。鬼どもはそういう地獄の中へ、代る代る杜子春を抛りこみました。ですから杜子春は無残にも、剣に胸を貫かれるやら、焔に顔を焼かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剥がれるやら、鉄の杵に撞かれるやら、油の鍋に煮られるやら、毒蛇に脳味噌を吸われるやら、熊鷹に眼を食われるやら、――その苦しみを数え立てていては、到底際限がない位、あらゆる責苦に遇わされたのです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言も口を利きませんでした。
これにはさすがの鬼どもも、呆れ返ってしまったのでしょう。もう一度夜のような空を飛んで、森羅殿の前へ帰って来ると、さっきの通り杜子春を階の下に引き据えながら、御殿の上の閻魔大王に、
「この罪人はどうしても、ものを言う気色がございません」と、口を揃えて言上しました。
閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、
「この男の父母は、畜生道に落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。
鬼は忽ち風に乗って、地獄の空へ舞い上りました。と思うと、又星が流れるように、二匹の獣を駆り立てながら、さっと森羅殿の前へ下りて来ました。その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩せ馬でしたが、顔は夢にも忘れない、死んだ父母の通りでしたから。
「こら、その方は何のために、峨眉山の上に坐っていたか、まっすぐに白状しなければ、今度はその方の父母に痛い思いをさせてやるぞ」
杜子春はこう嚇されても、やはり返答をしずにいました。
「この不孝者めが。その方は父母が苦しんでも、その方さえ都合が好ければ、好いと思っているのだな」
閻魔大王は森羅殿も崩れる程、凄じい声で喚きました。
「打て。鬼ども。その二匹の畜生を、肉も骨も打ち砕いてしまえ」
鬼どもは一斉に「はっ」と答えながら、鉄の鞭をとって立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、未練未釈なく打ちのめしました。鞭はりゅうりゅうと風を切って、所嫌わず雨のように、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になった父母は、苦しそうに身を悶えて、眼には血の涙を浮べたまま、見てもいられない程嘶き立てました。
「どうだ。まだその方は白状しないか」
閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、息も絶え絶えに階の前へ、倒れ伏していたのです。
杜子春は必死になって、鉄冠子の言葉を思い出しながら、緊く眼をつぶっていました。するとその時彼の耳には、殆声とはいえない位、かすかな声が伝わって来ました。
「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰っても、言いたくないことは黙って御出で」
それは確に懐しい、母親の声に違いありません。杜子春は思わず、眼をあきました。そうして馬の一匹が、力なく地上に倒れたまま、悲しそうに彼の顔へ、じっと眼をやっているのを見ました。母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思いやって、鬼どもの鞭に打たれたことを、怨む気色さえも見せないのです。大金持になれば御世辞を言い、貧乏人になれば口も利かない世間の人たちに比べると、何という有難い志でしょう。何という健気な決心でしょう。杜子春は老人の戒めも忘れて、転ぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸を抱いて、はらはらと涙を落しながら、「お母さん」と一声を叫びました。…………
その声に気がついて見ると、杜子春はやはり夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に、ぼんやり佇んでいるのでした。霞んだ空、白い三日月、絶え間ない人や車の波、――すべてがまだ峨眉山へ、行かない前と同じことです。
「どうだな。おれの弟子になったところが、とても仙人にはなれはすまい」
片目眇の老人は微笑を含みながら言いました。
「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかったことも、反って嬉しい気がするのです」
杜子春はまだ眼に涙を浮べたまま、思わず老人の手を握りました。
「いくら仙人になれたところが、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けている父母を見ては、黙っている訳には行きません」
「もしお前が黙っていたら――」と鉄冠子は急に厳な顔になって、じっと杜子春を見つめました。
「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望も持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になったら好いと思うな」
「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」
杜子春の声には今までにない晴れ晴れした調子が罩っていました。
「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇わないから」
鉄冠子はこう言う内に、もう歩き出していましたが、急に又足を止めて、杜子春の方
を振り返ると、
「おお、幸、今思い出したが、おれは泰山の南の麓に一軒の家を持っている。その家を畑ごとお前にやるから、早速行って住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の
花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。
最後は・・著書の中でも最も幼稚な作品で・・小学生でも書ける漫画ネタもの。神も悪魔も不在・・だが、人類誕生の折、宇宙から授けられた安堵が神だった・・人類は皮肉な事にその後、悪魔を創造した。
「神と悪魔」
グリムは嘯いた、「俺はこの世の神だ。俺に叶うやつはいない」
グリムは、このワールドを完全に支配していた。 金は幾らでもあるし、勿論、女にも事欠かない。カジノや酒場などもグリムが牛耳っている。
軍隊もグリムの配下にある。だから、悪逆非道の限りを尽くして来た。
先の世界大戦で人類は殆どが滅亡した。他にも街の様なものはあるが、交流は無い。
偶に流れ者がワールドを訪れる事はあるが、出て行く事は無い。
生きては出られないから。
そんなワールドにも、グリムに反発する若者達が現れた。
ジェイを初めとする数人は、俗に言う地下組織で、街の教会を占拠している武装集団だ。
地下組織の存在はグリムの耳にも入っている。
ワールドの住民は、「若者達は皆殺しにされるだろう」と誰もがそう思った。
数人で軍隊を相手にして勝てるのかと。
そんな時、二人の流れ者がワールドにやって来た。
一人の流れ者は教会には入らず、ジェイ達に加勢して軍隊と戦った。
そして、意外にもワールドに於ける力関係は逆転していった。
グリムは、形勢が不利になり、自分の身が危うくなると呟いた、「俺はこの世の神だ。無敵だ。負ける筈は無い」
しかし、形勢は変らなかった。グリムは教会に向かうと、ジェイに言った、「神のこの俺がお前達に殺される訳はない」
それを聞いていた流れ者は、薄笑いを浮かべると、「お前が神?やって来た事は、悪魔のようだったが」
その流れ者は、人間業では無い力で、持っていた剣をグリムの胸に突き立てた。
ジェイは狂喜して、「素晴らしい。あなたが本物の神だ」
その流れ者は、ワールドを去る直前に、「人は俺を悪魔と呼ぶ。神などいるわけがない。その上、俺の真似をするなどとんでもない。折角、この世に大戦を起こしたのに・・」
そう言うと、炎の様な目をキラリと光らせ笑った。
それを見ていたもう一人の流れ者が、「あんたが悪魔なのか、道理で強い訳だ」
と笑いながら流れ者の背に手を触れた。
途端に背中が溶けていく。
流れ者は、溶けていく自分の身体を見ながら、大きな声で叫んだ。
「お前!まさか・・?」
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